Wednesday, March 02, 2005

リチャード・アヴェドン

最近リチャード・アヴェドンやアーヴィング・ペンという名前を聞いても知らないというアシスタントが増えてきている。 40歳以上のフォトグラファーにとっては少なかれどこかで影響を受けた20世紀中のもっとも偉大な写真家の一人だと思う。その彼が昨年80歳でこの世を去ったのだが病死ではなく仕事中というカッコいい終わり方である。アヴェドンとの出会いは74年頃に日本のテレビや映画館で放映されたJUN&ROPEのCMだった。男装したモデルがスタジオに入り、シャツを開けると女性のバストが現れて初めて女性であることに気付くこのCMは非常にインパクトが強く、その後もずっと頭に焼き付いている。特に後半で見事に美しい女性へと変身したモデルが風に吹かれてカメラの前へ登場し、その瞬間を抑えたアヴェドンが「素晴らしい」というポーズをとるシーンは多くの人達をファッション写真という世界へ憧れさせたと思う。 今から22年前私はアメリカの写真学校を卒業してニューヨークで有名なフォトグラファーのアシスタントをしていた。 いっしょに住んでいたルームメイト二人もそれぞれアーヴィング・ペンとリチャード・アヴェドンのアシスタントを務めていた。 毎晩仕事が終わってロフトへ帰ると我々はビールを片手にその日スタジオであった出来事をシェアした。時にはそれぞれのスタジオから持ち帰ったゴミ袋の質を比べあったり、お昼のケイタリングの残り物を持ち帰って試食していたがダントツにアヴェドンが勝っていた。 そんなある日アービング・ペンの奥さんの彫刻展オープニングへ招待されて行って見ると当時の写真業界で有名だったScavullo, Hiroなど有名どころはすべて来場していた。アシスタント同士でかたまっているとエレベーターのドアが開いてアヴェドンが登場するのだが、真っ先に我々のところへ来てHi guys!と言って一人一人に挨拶してくれた。 これには凄く感激した。彼のアシスタントが我々を紹介すると「君たちは写真業界のマフィアか?」と鋭く冗談を切り返してきた。 しかし一番凄いと思ったのは握手した瞬間の彼の眼差し... それは初めて会う人というよりは長年の友人でもあるかのような優しくて暖かいものであり、そして一瞬にして彼の支配下に置かれてしまうマジックのようなものである。 アヴェドンの写真に写っている浮浪者から大統領までの幅広い被写体はすべて彼の魅力の虜となっているからこそあのような写真が撮れるのであって単に8x10カメラで撮影したからだという問題ではない。彼が放つもの凄いエネルギーがそのまま写っているのであると思う。 以前にテレビで兼高かおるさんも相手という者は自分の鏡のようであるとおっしゃっていたように人は必ず相手に敏感に反応してしまう。相手に優しくされると自分も同じように優しくなれるけど、相手に不快感を与えられると自分も嫌な気分になってしまう。 単純なことだが自分がどういうオーラを発しながら相手と接しているかを考えずに過ごしている人が多いと思う。 私は撮影でこれまでに多くの政治家や大企業のトップ、著名人達を撮影してきたが必ず相手にとって和める雰囲気作りに努力する。 結果というものはライティングとか機材ではなく、いかに相手と接したかが一番重要な要素であると思う。

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